「母材への熱ダメージを極限まで抑えたいが、従来のレーザー加工では限界がある…」
「微細な汚れや薄膜だけを選択的に除去したいが、その技術的な根拠が欲しい…」
最先端のものづくり現場において、品質と精度の要求は高まる一方です。
従来の「熱で溶かす」加工プロセスでは解決できない課題に直面し、より高度な物理現象の応用を模索されている技術者の方も多いのではないでしょうか。
その解決策として注目されているのが、「レーザーアブレーション(Laser Ablation)」です。
この記事では、レーザー技術の専門家が、レーザーアブレーションの物理的定義から発生メカニズム、そして従来の熱加工との決定的な違いについて、図解的な視点を交えて徹底解説します。
さらに、その原理を応用し、「母材をほとんど傷つけずにサビや塗膜だけを除去する」産業用レーザークリーナーの実用例までをご紹介します。
この記事を読めば、レーザーアブレーションの本質を理解し、あなたの現場の課題(熱ダメージ、微細クラック、加工精度)を解決するための、確かな技術的指針が得られるはずです。
レーザーアブレーションの定義と物理的メカニズム
まず、「レーザーアブレーション(Laser Ablation)」とは物理的にどのような現象なのか、その定義とメカニズムを解説します。
固体が瞬時に気体・プラズマへと移行する現象
通常、金属などの固体に熱を加えると、「固体 → 液体(溶融) → 気体(蒸発)」という順序で状態が変化します。
しかし、レーザーアブレーションにおいては、極めて短い時間(ナノ秒〜フェムト秒レベル)に高いエネルギー密度(高ピークパワー)のレーザー光を照射します。
これにより、物質は「液体」になる暇もなく、固体表面が、短時間で「気体」や「プラズマ」の状態へと変化します。
この、液体状態を経ずに気体(さらにはプラズマ)になる現象は物理学的な「昇華(しょうか)」に近く、アブレーション加工の根幹をなす物理現象です。
分子結合の切断と爆発的な飛散(アブレーションプルーム)
高エネルギーのレーザー光が物質表面に吸収されると、電子が励起され、原子や分子の結合が直接切断されたり、急激な熱膨張が局所的に発生したりします。
この結果、照射された部分の物質は微細な粒子やプラズマとなって、表面から爆発的に放出されます。
このとき、放出される物質がキノコ雲のように噴き上がる様子を「アブレーションプルーム(Ablation Plume)」と呼びます。
このプルームとして物質を外部へ「捨て去る(Ablation)」ことで、対象物を除去・加工するのがレーザーアブレーションの基本原理です。
熱加工(溶融)と非熱加工(アブレーション)の決定的違い
産業用レーザーには、大きく分けて「熱加工」と「非熱加工(アブレーション)」の2つのアプローチがあります。
ここでは、その違いを決定づける要因と、それぞれの特性を比較します。
CWレーザー(熱加工)による熱影響層(HAZ)の発生メカニズム
連続波(CW)レーザーや、パルス幅の長いレーザーを使用する場合、エネルギーの供給が連続的であるため、照射点から周囲へ熱が伝導する時間が生まれます。
- レーザーを照射する。
- 熱が周囲に広がりながら、対象物がドロドロに溶ける(溶融)。
- 溶けた部分をアシストガスなどで吹き飛ばして除去する。
このプロセスでは、加工部の周囲に熱が伝わり、金属組織が変質したり、酸化したりする領域がどうしても発生します。
これを「熱影響層(HAZ:Heat Affected Zone)」と呼びます。
HAZは、母材の強度低下、歪み、バリの発生、耐食性の劣化といった品質トラブルの主原因となります。
パルスレーザー(アブレーション)による「非熱的」加工の優位性
一方、パルス幅の短い(ナノ秒以下)パルスレーザーを用いたアブレーション加工では、熱が伝導する時間を与えずに、物質を瞬時に蒸発・飛散させます。
- 極短パルスの高エネルギーを照射する。
- 熱が周囲に伝わる前に、照射部だけが瞬時にプラズマ化・蒸発する。
- 熱影響層(HAZ)は、従来の熱加工に比べて極めて小さく抑えられます。
このように熱の広がりを大幅に抑えた加工は、「非熱的加工」や「クール加工」と呼ばれることがあります。
これにより、バリや歪みのない、極めて精密な加工が可能となります。
比較:溶かして飛ばす加工 vs 蒸発させて飛ばす加工
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
| 比較項目 | 熱加工(溶融加工) | アブレーション加工(非熱的加工) |
|---|---|---|
| 主なレーザー | CWレーザー(連続波)、長パルス | パルスレーザー(短パルス〜超短パルス) |
| 除去の原理 | 溶融(溶かして飛ばす) | 昇華・蒸発(結合を切って飛ばす) |
| 熱影響層 (HAZ) | × 発生する(広い) | ◎ ほぼ発生しない(極めて狭い) |
| 加工品質 | △ バリやドロスが出やすい | ◎ シャープなエッジ、バリなし |
| 母材ダメージ | △ 熱歪み・変質の懸念あり | ◎ 熱ダメージ・歪みほぼゼロ |
なぜ母材をほとんど傷つけずに異物だけを除去できるのか
レーザーアブレーションの大きな特徴として、「選択的な除去」が可能である点が挙げられます。
これは、例えば「金属の表面についたサビや塗膜だけを除去し、下地の金属は全く削らない」といった制御です。
なぜそのようなことが可能なのでしょうか。
加工閾値(フルエンス)と選択的除去のロジック
物質にはそれぞれ、アブレーション(蒸発・分解)が発生し始めるために必要な最小限のエネルギー密度があります。
これを「加工閾値(しきい値)」や「アブレーション閾値」と呼びます。
一般的に、サビ(酸化物)や樹脂(塗膜)などの有機物・化合物は、金属母材よりも低いエネルギーで分解・蒸発します。
この特性を利用し、「サビは蒸発するが、金属母材は加工されない」絶妙なエネルギー密度(フルエンス)にレーザーを調整・制御することで、表面の汚れだけを選択的に除去することが可能になります。
レーザー光の吸収率と反射率を利用した制御

もう一つの要素は、物質による「光の吸収率」の違いです。
- サビ・塗膜: レーザー光をよく吸収し、エネルギーとして受け取って蒸発する。
- 金属母材: 表面が清浄になるとレーザー光を反射し、エネルギーを吸収しにくい。
アブレーションによって表面の汚れが除去され、下地の金属が露出した瞬間に、レーザー光は金属表面で反射されます。
これにより、物理的にそれ以上加工が進まない(母材が削れない)という自己停止的な機能(※金属母材が除去対象物よりもレーザー反射率が高い場合に有効な機能)が働き、母材ダメージレスな処理が実現します。
レーザーアブレーション技術の主な産業応用
この「精密」「低熱影響」「選択的除去」というアブレーションの特性は、最先端の産業分野で幅広く応用されています。
表面処理・レーザークリーニング(サビ・塗膜除去)

最も注目されているのが、「レーザークリーニング」です。
金型の精密洗浄、インフラ構造物のサビ取り、航空機の塗装剥離などにおいて、母材をほとんど削ることなく、汚染物質だけをクリーンに除去します。
サンドブラストや薬品洗浄に代わる、環境負荷の低い次世代技術として導入が進んでいます。
微細加工・パターニング(半導体・電子部品)
スマートフォンや電子デバイスの製造において、ガラスやフィルムの切断、穴あけ、薄膜のパターニング(回路形成)に使われています。
熱影響による基板の焦げや歪みが許されない分野で、アブレーションの「非熱的加工」が不可欠となっています。
成分分析(LA-ICP-MS)
分析化学の分野では、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)として活用されています。
固体の試料にレーザーを照射して微粒子化(アブレーション)させ、それを分析装置に導入することで、試料に含まれる微量元素を測定する技術です。
アブレーション技術を実用化した「ULT LASER」

理論的なメカニズムをご理解いただいたところで、このアブレーション技術を実際の産業用洗浄機として実用化した製品をご紹介します。
それが、私たちが開発・製造するレーザークリーナー「ULT LASER」です。
理論を実践へ。パルス・CWのアブレーション制御技術
「ULT LASER」は、アブレーション効果を最大限に引き出すために設計された、産業用レーザー装置シリーズです。
出力、周波数、スキャンスピードを精密に制御することで、「汚れのアブレーション閾値」を超えつつ、用途に応じた最適な加工条件を安定して出力します。
これにより、実験室レベルではなく、過酷な製造現場や屋外現場でも使える実用機としての性能を実現しました。
【動画で見る】アブレーション効果によるサビ・塗膜の瞬時除去
実際にレーザーアブレーションによって、母材をほとんど傷つけることなくサビや塗膜が「蒸発」して消え去る瞬間をご覧ください。
熱で溶けているのではなく、瞬時に気体・粉体となって飛散している様子がご確認いただけます。
防衛省採用が証明する技術的信頼性と安全性
アブレーション加工の難しさは、その制御にあります。
制御が甘ければ、母材を溶かしたり、逆に汚れが残ったりします。
ULT LASERは、その精密な制御技術と安全性が評価され、防衛省にも正式採用されています。
母材への熱ダメージや微細なクラックが一切許されない極めてシビアな環境において、私たちの技術が選ばれていることは、アブレーション技術の完成度を示す何よりの証拠です。
まとめ:アブレーション技術で、生産プロセスを革新する
今回は、レーザーアブレーションの物理的な原理から、熱加工との違い、そして産業応用までを技術的な視点で解説しました。
- レーザーアブレーションは、固体を瞬時に気化させる「昇華」を利用したプロセスである。
- 熱が伝わる前に加工するため、熱影響層(HAZ)や歪みのない「非熱的加工」が可能である。
- 加工閾値(フルエンス)の制御により、母材をほとんど傷つけずに異物だけを選択的に除去できる。
従来の「削る」「溶かす」「薬品で洗う」といったプロセスに課題を感じているエンジニアの皆様にとって、このアブレーション技術は、生産プロセスを根本から革新する鍵となるはずです。
「自社のワークで、アブレーション効果を試してみたい」
「熱影響が出ないことを、実機で確認したい」
そうお考えでしたら、ぜひ一度、オプティレーザーソリューションズにご相談ください。
理論だけでなく、実際のワークを用いたデモンストレーションで、その真価をご自身の目でお確かめいただけます。