「レーザーってよく聞くけど、一体何なんだろう?」
「普通の光と何が違うの? どうしてあんなに強力なの?」
仕事や学習の中で「レーザー」という言葉に触れたとき、このような素朴な疑問を感じたことはありませんか?
インターネットで検索しても、難解な数式や専門用語の羅列で、かえって混乱してしまう。かといって、今さら「レーザーの基本を教えてください」とは、なかなか聞きづらい…。
もし、あなたが今、レーザーに対して少しでもそんな疑問や好奇心をお持ちなら、この記事はきっとあなたのためのものです。
この記事では、レーザー技術の専門家が、知識ゼロの初心者に向けて書いた「世界一わかりやすい教科書」です。物理の難しい数式は一切使いません。
レーザーとは?太陽光やLEDとの根本的な違い
まずは「レーザーとは何か?」という基本のキから始めましょう。
この章では、レーザーの正式名称とその定義、そして私たちの身の回りにある太陽光やLEDの光とは、いったい何が根本的に違うのかを解説します。
レーザーの正式名称と定義
「レーザー(LASER)」という言葉は、実は略語です。
その正式名称は、「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」。
日本語に訳すと「誘導放出による光の増幅放射」となります。
なんだか難しそうですね。でも、安心してください。
この長い名前こそが、レーザーの仕組みそのものを表しています。
今は「特殊な方法(誘導放出)で、光をものすごく強く(増幅)したもの」とイメージしておけば大丈夫です。
この「特殊な方法」については、後の章で詳しく図解します。
一目でわかるレーザー光の3大特性
レーザーが「特別な光」である理由は、他の光にはない、以下の3つの際立った特性を持っているからです。
特性1:指向性(光がまっすぐ進む)

懐中電灯の光は、進むにつれて大きく広がってしまいます。
しかし、レーザーポインターの光は、遠い壁に当たっても小さな点のままです。
このように、レーザー光はほとんど広がらずに、まっすぐ一直線に進む性質を持っています。
これを「指向性」と呼びます。この性質があるからこそ、遠くまでエネルギーを届けることができるのです。
特性2:単色性(光の色が混じっていない)
太陽光をプリズムに通すと、虹のように様々な色の光に分かれます。
これは、太陽光に様々な波長(色)の光が混ざっている証拠です。
一方、レーザー光は、ほぼ単一の波長(色)だけで構成されています。
これを「単色性」と呼びます。
赤いレーザーは赤色、緑のレーザーは緑色の光だけを含んでおり、色が混じり合っていません。
特性3:可干渉性(コヒーレンス)(光の波が揃っている)
光は「波」の性質を持っています。
電球の光は、たくさんの波がバラバラのタイミングで出ていくため、波の山と谷が揃っていません。
一方、レーザー光は、すべての波が歩調を合わせた兵隊のように、山と谷のタイミング(位相)をきれいに揃えて進みます。
これを「可干渉性(コヒーレンス)」と呼びます。
この波の整然さが、レーザーのエネルギーを強力にしています。
| 特性 | レーザー光 | 太陽光やLED光 |
|---|---|---|
| 指向性 | 光がまっすぐ進み、広がらない。 遠くまでエネルギーを届けられる。 | あらゆる方向に広がる。 遠くに行くほど弱くなる。 |
| 単色性 | ほぼ単一の色(波長)で構成されている。 純粋な光。 | 様々な色(波長)が混ざり合っている。(太陽光は虹の七色) |
| 可干渉性 (コヒーレンス) | 光の波の山と谷が、完全に揃っている。 エネルギーを制御・集中しやすい。 | 光の波の山と谷がバラバラ。 干渉し合い、エネルギーが打ち消し合う。 |
この3つの特性があるからこそ、レーザーはエネルギーを一点に集中させ、様々な奇跡のような現象を引き起こすことができるのです。
図解でわかるレーザー発振の原理と仕組み
さて、いよいよ本題です。これほど特殊なレーザー光は、いったいどのような原理と仕組みで生み出されるのでしょうか。
ここでは、そのプロセスを専門用語を噛み砕きながら、図解をイメージして3つのステップで解説していきます。
レーザー発振に不可欠な3つの要素
レーザー光を作り出す(発振させる)ためには、どんなレーザー装置にも共通して、以下の3つの要素が不可欠です。
- 媒質(ばいしつ)
レーザー光を発生させる「材料」。固体、気体、半導体など様々な種類がある。 - 励起(れいき)
媒質に外部からエネルギーを与え、レーザー光を出す準備をさせること。 - 光共振器(ひかりきょうしんき)
発生した光を特定の方向に何度も往復させ、増幅させる装置。
この3つが揃って初めて、レーザー光は生まれます。では、具体的なプロセスを見ていきましょう。
ステップ1:外部からのエネルギー供給(励起)
まず、レーザーの材料である「媒質」の中にあるたくさんの原子に、外部からエネルギーを与えます。
これを「励起(れいき)」と呼びます。
強い光を当てたり、電気を流したりするのが一般的です。
エネルギーを受け取った原子は、落ち着いた「基底状態」から、興奮した「励起状態」へと移ります。
これは、静かに座っている人にエネルギーを与えて、立ち上がらせるようなイメージです。

ステップ2:光が光を呼ぶ現象(誘導放出)
励起状態の原子は不安定なため、すぐに元の落ち着いた状態に戻ろうとします。
このとき、蓄えたエネルギーを「光(光子)」として放出します。
ここで重要なのが、アインシュタインが発見した「誘導放出」という現象です。
励起状態の原子のそばを、別の光(光子)が通過すると、それが引き金となって、その原子は通りかかった光と全く同じ方向・同じ波長・同じタイミングの光を放出して基底状態に戻るのです。
つまり、「1つの光が、仲間を1人連れてきて、2つの光になる」のです。
これが、光が光を呼ぶ「誘導放出」の正体であり、レーザーの「L-A-S-E-R (Stimulated Emission = 誘導放出)」の頭文字が示す、最も重要な原理です。


ステップ3:光を増幅させる装置(光共振器)
誘導放出によって光は2倍になりました。
しかし、これだけではまだ強力なレーザー光にはなりません。
そこで登場するのが「光共振器」です。
これは、媒質の両端に置かれた2枚の鏡で構成される装置です。
誘導放出で生まれた光は、この2枚の鏡の間を何度も何度も往復します。
往復するたびに、他の励起状態の原子に次々とぶつかり、雪だるま式に「誘導放出」を連鎖させていきます。
こうして、同じ性質を持つ光の粒が爆発的に増幅されていきます。
そして、2枚の鏡のうち、片方は光を100%反射しますが、もう片方は数%だけ光を透過するようになっています。
鏡の間で十分に増幅された光が、この半透明の鏡を突き抜けて、一斉に、同じ方向に、同じ性質で飛び出してくる一直線の強力な光の束こそが、私たちが目にする「レーザー光」なのです。

レーザーの主な種類と特徴の一覧
レーザーの基本原理がわかったところで、次は「どんな種類のレーザーがあるのか」を見ていきましょう。
レーザーは、光を発生させる「材料(レーザー媒質)」によって、いくつかの種類に分類されます。
ここでは代表的なものを紹介します。
媒質による分類(固体・気体・半導体)
レーザーの媒質は、物質の状態によって「固体」「気体」「液体」に分けられます。産業用で広く使われているのは主に「固体」「気体」、そして特殊な「半導体」です。
| 分類 | 主なレーザー | 特徴 |
|---|---|---|
| 固体レーザー | YAGレーザー, ファイバーレーザー | 高出力で、加工やマーキング、医療など幅広い用途で活躍。 |
| 気体レーザー | CO2レーザー, エキシマレーザー | 高い出力や特殊な波長の光を出し、切断や半導体製造に使われる。 |
| 半導体レーザー | LD (レーザーダイオード) | 非常に小型で省エネ。光ディスクの読み書きや通信に使われる。 |
固体レーザー(YAGレーザー・ファイバーレーザー)
ルビーやYAG(ヤグ:Yttrium Aluminum Garnet)といった固体の結晶を媒質とするレーザーです。
高出力化しやすく、加工や医療など幅広い分野で利用されています。
近年、この固体レーザーの中でも特に注目されているのが「ファイバーレーザー」です。
光ファイバーそのものを媒質としており、非常に高い出力と優れたビーム品質を両立できるのが特徴です。
エネルギー効率が高く、小型化も可能なため、精密加工やマーキング、そして後述するレーザークリーニングといった分野で急速に普及しています。
その詳細な原理やYAGレーザーとの決定的な違いについては、下記の記事をご覧ください。
気体レーザー(CO2レーザー・エキシマレーザー)
二酸化炭素(CO2)や、ヘリウム、ネオン、アルゴンといった気体を媒質とするレーザーです。
CO2レーザーは、特に鉄やステンレスといった金属の切断・加工に古くから利用されています。
また、エキシマレーザーは半導体の製造プロセス(リソグラフィ)や、視力矯正手術(レーシック)などで活躍しています。
半導体レーザー(LD)
その名の通り、半導体そのものを媒質とするレーザーです。
非常に小型で安価に製造できるのが最大の特徴で、CDやDVD、Blu-rayディスクの読み書き、レーザーポインター、光通信の光源など、私たちの最も身近なところで使われているレーザーです。
レーザー技術の身近な応用例と産業での活用
さて、レーザーの基本原理と種類がわかったところで、次はその技術が私たちの世界で「どのように使われているのか」を見ていきましょう。
難しそうに思えたレーザー技術が、実は私たちの生活や社会を、あらゆる場面で支えていることがわかります。
日常生活を支えるレーザー技術

私たちは、意識せずとも毎日のようにレーザー技術の恩恵を受けています。
- 光ディスク(CD・DVD・Blu-ray)
ディスクの表面に刻まれた微細な凹凸を、半導体レーザーの光を当てて読み取ることで、音楽や映像を再生しています。 - バーコードリーダー
スーパーやコンビニのレジで使われるバーコードリーダーは、レーザー光をバーに照射し、その反射光の違いを読み取って商品を特定しています。 - レーザーポインター
プレゼンテーションなどで使われるレーザーポインターは、レーザーの持つ高い「指向性」を最も分かりやすく体感できる例です。
産業分野での応用(加工・計測・通信)

産業分野では、レーザーの強力なエネルギーと精密な制御能力が、ものづくりのあり方を大きく変えました。
- 加工(切断・溶接)
CO2レーザーやファイバーレーザーは、分厚い鋼板を精密に切断したり、自動車のボディを歪みなく溶接したりするのに使われます。 - 計測(距離測定・3Dスキャン)
レーザー距離計は、対象物に光を当てて、その反射光が返ってくるまでの時間で瞬時に距離を測定します。この技術は、建築現場から自動運転車のセンサー(LiDAR)まで、幅広く応用されています。 - 通信(光ファイバー)
私たちが利用するインターネットの高速大容量通信は、レーザー光が光ファイバーの中を情報を乗せて駆け巡ることで実現しています。
医療・バイオ分野での活用

レーザーの「特定の対象にだけエネルギーを集中できる」という特性は、精密さが求められる医療分野でも大きな力を発揮しています。
- レーザーメス
特定の組織だけを精密に切開・蒸散させることができます。同時に、血管を熱で固める(熱凝固)作用があるため、出血の少ない手術が可能です。 - 視力矯正手術(レーシック)
エキシマレーザーを用いて角膜の形状を精密に変化させ、視力を矯正します。 - 美容医療・検査
シミやあざの除去、血液検査や細胞分析など、診断から治療まで多岐にわたって利用されています。
最先端の応用技術レーザークリーニング

そして今、産業分野で特に注目を集めている最先端の応用技術が「レーザークリーニング」です。
これは、レーザー光の特性を活かし、製品や設備の母材をほぼ傷つけることなく、表面のサビや塗膜、油汚れだけを瞬間的に除去する画期的な技術です。
環境負荷が少なく、サンドブラストの研磨材や薬品洗浄の化学薬品といった、継続的に発生する消耗品が不要なため、製造現場やインフラ保全の常識を変える新技術として、導入が急速に進んでいます。
レーザークリーニングの詳しい仕組みやメリットについては、下記の記事で徹底解説していますので、ぜひご覧ください。
レーザー技術に関するよくある質問
ここでは、レーザーに関して多くの方が抱く、素朴な疑問にお答えします。
Q. レーザーとレーザの違いは?
A. 結論から言うと、意味は全く同じで、表記上の違いがあるだけです。
日本の内閣が告示した「外来語の表記」の指針では、長音符号(ー)は原則として省略しないことになっています。
そのため、公的な文書や多くのメディアでは「レーザー」と表記されるのが一般的です。
一方で、学術分野や一部の業界では慣習的に「レーザ」と表記されることもあります。
どちらも間違いではありませんが、一般的には「レーザー」と覚えておけば問題ありません。
Q. レーザーの色は何で決まる?
A. レーザーの色は、その光の「波長」によって決まります。
そして、その波長を決定づけるのが、光を発生させる材料である「レーザー媒質」です。
媒質を構成する原子や分子が持つ特有のエネルギー準位によって、放出される光の波長が物理的に決まっているためです。
例えば、He-Ne(ヘリウムネオン)レーザーは赤色、Nd:YAGレーザーは近赤外線といった具合です。
Q. レーザー光は目にとって危険?
A. はい、極めて危険です。絶対に直接見てはいけません。
その理由は、私たちの目のレンズ(水晶体)が、平行に進むレーザー光を網膜上の一点に集光させてしまうためです。
虫眼鏡で太陽光を集めて紙を焦がすのと同じ原理で、レーザーのエネルギーが網膜の非常に小さな一点に集中し、深刻で回復不能なダメージを与えてしまうからです。
業務用レーザーの多くは、安全のために厳格なクラス分けがされており、使用には必ず専用の保護メガネの着用が義務付けられています。
まとめ:レーザーの基礎は、未来の技術を理解する第一歩
今回は、レーザーの仕組みについて、その基本原理から種類、そして私たちの生活や産業を支える具体的な応用例まで、網羅的に解説しました。
この記事の重要ポイント
- レーザーは「指向性」「単色性」「可干渉性」という3つの際立った特性を持つ、人工的な光である。
- レーザーは「①励起 → ②誘導放出 → ③共振・増幅」という3つのステップを経て、強力な光として生み出される。
- レーザーには媒質によって様々な種類があり、その特性を活かして、通信、医療、加工、そしてクリーニングといった多種多様な分野で活用されている。
レーザーの仕組みを理解することは、単に一つの技術を知ることではありません。
それは、現代社会を動かし、未来のイノベーションを創り出す、テクノロジーの根幹に触れることです。
この記事を通して、あなたの頭の中にあった「レーザーとは何か?」という漠然とした疑問が、明確な知識へと変わったなら幸いです。
そして、この基礎知識が、あなたの業務や研究における、次なる一歩を踏み出すための確かな土台となることを願っています。